スポーツ振興の遅れ
インドは1947年の独立以来、スポーツ振興に積極的ではありませんでした。独立後の東西冷戦期、米ソ両陣営が国威発揚の手段としてスポーツ強化に力を入れていた一方で、インドは非同盟主義を貫き、スポーツ振興には消極的な姿勢を取り続けてきたのです。
独立以来のインドのオリンピック獲得メダル数は僅か23個にすぎず、人口13億人の大国とは思えない低い成績です。1人当たりのメダル数でも、人口規模が遥かに小さなモンゴルと同水準にあります。インド政府関係者も「過去の成績が13億の人口にふさわしいものではない」と認めざるを得ない状況でした。
この背景には、スポーツ振興に対する予算不足や、施設・環境の整備の遅れがありました。選手たちは、やり投げの練習に木を切って作ったり、リュージュの練習に板に滑車を付けて急な坂道を滑るなど、非常に厳しい環境の中で鍛錬を重ねてきたのが実情でした。
スポーツ振興の阻害要因
インドがスポーツ大国になれない背景には、いくつかの大きな要因が存在します。
第一に、メダル量産につながる「お家芸」がないことが挙げられます。アジア大会レベルでは陸上競技や射撃が健闘しますが、世界大会では太刀打ちできません。一方、日本は競泳、柔道、体操、レスリングなど、確実にメダルを獲得できる競技が複数あります。
第二に、スポーツ振興を国家戦略として位置付けるような「文化」がインドにはないことが大きな要因です。小中学校の授業にも体育がほとんど取り入れられておらず、スポーツに親しむ機会が乏しいのが実情です。裕福な家庭の子供でなければ、幼少期からスポーツに触れる機会に恵まれません。
第三に、ヒンズー教やイスラム教の影響により、特に女子スポーツが敬遠される傾向があります。肌を露出するスポーツは忌避されがちで、水泳などの競技で女子選手が育ちにくい環境にあります。
このように、インドにはスポーツ振興を後押しする社会的・文化的な土壌が十分に醸成されていないのが現状なのです。
インドで人気なスポーツクリケット
インドで最も人気のあるスポーツは間違いなくクリケットです。クリケットは国技とも呼ばれ、国民の熱狂的な支持を集めています。
クリケットは、かつて英国の植民地時代にエリート層の間で広まりを見せましたが、その後も一般層にも定着し、今日ではインド最大のスポーツ文化となっています。テレビ中継視聴者数や観客動員数、選手の社会的地位などを見ても、クリケットの圧倒的な人気が分かります。
一方で、クリケットはオリンピック種目にはなっていないため、メダル獲得につながりません。インドのスポーツ振興は、クリケットに人気が集中する余り、他のスポーツ分野の発展が阻害されてきた面もあるのです。
人口13億人を擁するインドが、オリンピックやアジア大会などの世界的な舞台で、スポーツ大国として君臨できるようになるには、まだ多くの課題を克服しなければなりません。スポーツ振興への国家的な取り組みの強化や、学校教育の中でのスポーツ活動の拡充、そして多様なスポーツ文化の醸成など、様々な改革が求められているのが現状といえるでしょう。